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理事長コラム~今月のひとこと~

池袋事件とくれんどの希望

2024-03-26

 3年前の1月、池袋のラブホテルで起きた傷害致死事件の判決が、2/20東京地裁で言い渡された(「懲役6年」)、という報道が目に留まった。報道によれば、事件は、知人の男らが被告の知的障害につけ込んで連日売春をさせた末に起きた犯行だったという。凶器となったカッターナイフは、護身用ではなく「からだを売るのがつらいのでリストカット用に持ち歩いていた」という。何ともやり切れない事件だ。
 
 加害者となった26歳の女性には、軽い知的障害と衝動的、場当たり的に行動するといったADHD特性があったというが、一方で、幼少期から医療や福祉につながり、中高は特別支援学校に通い、放課後等デイサービスを利用し、それなりに信頼できる職員もいたという。もちろん、そのことが犯罪抑止力になるわけでも、逆に地域からの排除、隔離体験が犯罪の引き金になったと短絡的に言いたいわけではない。ただ、かつて放課後等デイに所属し、将来、あるいは福祉就労や生活介護の場に戻って来るかも知れないという蓋然性の前に、そこに身を置く私たちとして考えなければならないことはいくらもある。犯罪の抑止に反省や自助努力を強要すること、あるいは厳罰化や社会からの隔離・排除が、むしろ逆効果になってしまうことは、司法福祉の世界では常識になっている。社会的な居場所、受け皿の一つとしてリカバリーしなければならないのは私たちの側のようだ。
 
 アディクション(嗜癖、依存症)にはコネクション(関係の再構築)ということばがある(松本俊彦・国立精神神経医療センター)。私たちに、当事者の社会的な承認欲求を満たすことは出来ないかも知れない。しかし、掛け値なしの「存在の承認」は出来るかも知れない。児童精神科医のウィニコットは、そのことをdoing(すること)の前にbeing(あること)が重要だと指摘している。くれんどの子ども家族支援センターでは、目標の根っこの一つにそのことばを据えている。それでも「生まれて良かった」と思えるような存在承認である。
 
 もう1つ、出来ればのひと言。くれんどがろう者をモデルに、目標にしていることの一つは、社会的マイノリティとしての「矜持」「誇り」である。さらに、障害者などマイノリティとマジョリティの関係について社会学者の上野千鶴子は、2019年の東大入学式の祝辞で、「新しい価値とはシステムとシステムのあいだ、異文化が摩擦するところに生まれる」と述べた。社会的マイノリティとの出会いと摩擦から、もしかしたら、新しい価値観ともう一つの地域を生み出せるかもというのが地域のアンカー拠点・くれんどの背伸びした目標だ。

(小河 努)

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