理事長コラム~今月のひとこと~
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異質を、異常から異文化へ
2017-05-26
障害理解にも通じる三好春樹の認知症(若年性のアルツハイマー病ではなくもっともポピュラーなアルツハイマー型認知症)の定義を改めて紹介してみる。それは、ひと言で言えば脳萎縮による生物的な変化ではなく、「老化にともなう人間的変化」ということになる。「人間的変化」とは、文字通り人間にしか起こらない変化だ。
国際医療福祉大学の竹内孝仁は、アルツハイマー型の認知症について、近代的な因果論や個体還元論つまり脳萎縮論では説明できない、むしろ、認知症状(状態像)が脳萎縮の原因となっている可能性が高いと、その状態像を3つに分類した。それが、①葛藤型、②回帰型、③遊離型という3類型だ。
三好春樹はその竹内孝仁と『新実用介護事典』を出している。当然、その認知症論には、この人間くさい3類型がベースになっている。認知症という状態像からその人の物語を見ようとしているのだ。人間は、過去と今を引き比べ自由に往還するのだ。
しかし、認知症の「異質性」は、近代的な医療モデルでは、予防治療を含めて治せないとなると、「異常な状態」として隔離・排除される危険性を持つ。
一方、三好春樹の「老いにともなう人間的変化、人間的ドラマ」という捉え方は、異質な存在を「異文化」としてとらえ、相手の世界に入り込むことによって、私たちの常識を対象化しようとする複眼的な視点を獲得する可能性を持っている。
こういう見方つまり異質、異文化に対するリスペクトがベースにあって三好春樹は、介護にあっても、「栄養補給」ではなく、口からの「食事ケア」、「汚物処理」に対して、したいときにトイレでする「排泄ケア」、特浴という「人体洗浄」ではなく、これまで入って来た入り方にこだわる「入浴ケア」という人間としての基本的介護にこだわる。
時空を瞬時にデジタルで行ったり来たり(場面転換)する、認知症老人へのこのまなざしは、障害者理解にもつながるものの見方だと思う。