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理事長の連載コラム~今月のひとこと~

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他者の存在

2021-01-15
「幼い頃から、怒りや悔しさが兆すとどういうわけか心より先にまずてのひらの芯が痛んだ」
大森静佳(歌集『てのひらを燃やす』のあとがきから)
 新聞のコラム欄に上の歌人のことばが引いてあった(12/20付朝日新聞)。感想は、しばしばまず身体的痛みとして知覚される。学校や会社に行きたくないとき、お腹が痛くなったり、頭が痛くなったりするのは、似たような現象のようだ。

 脳性小児マヒで車イスユーザーである小児科医の熊谷晋一郎(東大先端研教授)の紹介によれば、医学で分類される「痛み」には3つの種類があるのだという。

①侵害受容性疼痛
②神経障害性疼痛
③中枢機能障害性疼痛

「侵害受容性疼痛」は、虫歯など痛い場所に原因がある場合で、そこを治療すれば治る。「神経障害性疼痛」は、歯から脳までの神経回路のどこかが圧迫されて、末端の歯を痛いと錯覚する場合、これも病院で調べることができる。

 やっかいなのは、3つ目の「中枢機能障害性疼痛」だ。これは、歯が痛いというとき、歯に原因がなく、歯と脳内をつなぐ神経にも原因がなく、にもかかわらず脳のなかで「歯が痛い」と経験するなにかが起きているという、すごく謎めいた痛みだ。

 脳生理学の権威であるヴァーニャ・アプカリアン(ノースウエスタン大学教授)という学者は、この痛みをシンプルに「痛みの記憶」だと言っている。スピリチュアルペイン(霊的痛み)と言われるものがそれである。トラウマ体験などもそれに当たる。冒頭のケースも同様だ。

 ところで、自身医者でもある熊谷晋一郎は、30歳を過ぎた辺りから、理由の分からない痛みに襲われ、「ドクターショッピング」をくり返した挙句、結局のところ痛みの原因が、この3番目の「中枢機能障害性疼痛」にあったことに、痛みが引いた後に気づいた体験を語っている(『痛みの医学』)。

 熊谷晋一郎の痛みの原因は、脳性マヒによる二次症状ではなかった。幼児期の地獄のようなリハビリ体験でもなかった。大学を卒業し、医療の最前線に近い現場で忙しく仕事をし、ようやく自分の診療スタイルをつかめるようになった矢先の痛みだったが、まさにその自分の「物語」の継続に、無理が来ているサインとして痛みがあったことに気づかされたのだという。

 痛みが取れたのは、以前教えを乞うた担当医に自分自身のことを洗いざらいしゃべれたことではないかという。しゃべることで、しゃべる相手がいることで、人は自分自身の人生のとらえ直しをする。しゃべることが、人を、過去のトラウマや今現在の痛みから解放する力になったという例だ。

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