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理事長コラム~今月のひとこと~

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ボケは新しい意味を生む

2012-05-23
 先日来、敬愛する三好春樹兄さんの「生活リハビリ講座」を受講しているので、その中から老いにかかわるいくつかのエピソードを紹介することにします。
 
 人は誰しも老い、病んでいきます。ある人は、こんなはずではなかったと葛藤をくり返し、あるいは否認して良き時代に帰ろうとし、あるいは何もしようとしなくなります。このように認知症を、3つの型(葛藤型・回帰型・遊離型)に分類してみせたのが竹内孝仁です(『介護基礎学』)。ひとは、老いゆくなかで、それでも世界を再構成しようとしているのだというのです。
 
 この分類は、それまでの(いや今も主流です)「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」という個体還元論に基づく病理学的分類にどっぷりと浸かっていた「介護界」に大きな衝撃を与えました。ひとを病変で見ないのであれば、私たちに出来ることはたくさんあるからです。その人自身がボケながら世界を再構成しようとしているのであれば、私たちはその人の生活や人間関係のなかで、生活づくりや関係づくりを手伝うことが出来ます。詩人の谷川俊太郎が「ボケは新しい意味を生む」と言ったのは、そういう意味だったのかも知れません。
 
 終末期ケアでは必ず取り上げられる、キューブラー・ロスの有名な死の受容過程があります(『死ぬ瞬間』)。「否認-怒り-取引き-抑うつ-受容」です(「取引き」はヨーロッパのキリスト教的な文化の影響が強いので省いた方がいいかも知れません。また「受容」ということばは、「あきらめ」とか「仕方ない」と言った方が私たちにはしっくりと来るかも知れません)。この本を読んで、「死を受容していく過程は、自分の人生を受容するということを通して、すでに私たちは一度やっていることだ」と言ったのは、先ごろ亡くなった吉本隆明です。思春期から青春期にかけて、こういう葛藤をたいていの人が経験しているという意味です。私たちは青春時代に一度「死んでいる」と言っていいのかも知れません。
 
 これを老化の過程であらわれる認知症の受容過程に置き換えてみると、「受容期-葛藤期(葛藤型)-否認期(回帰型)-ショック期(遊離型)」となります。つまり、一度はあきらめていると思っていた自分が、老化にともない再びあきらめ切れなくなくなってくる過程と言えなくはありません。言い換えれば、ボケとは、正常から遠く離れた異常な世界ではなくて、老化と病気という人生の困難さをめぐる、まさに人間的で人間くさい、ごくあたり前のドラマなのです。

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