理事長コラム~今月のひとこと~
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ふつうであることを問う
2015-04-25
相談の場面で、ときに親から「自分の子はまだ普通かもしれない、普通の子ですよね」とすがるように念押しをされることがある。わたし自身をふり返ってみても、自分の子のときはさすがにそう思うどころか、逆にひとりぐらい障害を持った子が生まれてくれないかと願い、事実その通りにはなったが、2歳上の知的障害をもつ姉と育ち、思春期を迎えたころには、「なぜ自分の家はふつうでないんだろう」と悩んだ時期があったので、「普通であってほしい」という親の願いは痛いほど分かる。それは次のような数値にも現われる。
「2013年4月から1年間で新型出生前診断を受けた妊娠者は7740人。うち、染色体異常が陽性とされた142人のうち113人(約80%)が羊水確定検査を受け、うちさらに110人(97%)が中絶」。
優生保護法の精神は、亡霊などではなく堂々と生きている。さらに、「総診断社会」と言われる「治療・療育強迫幻想」のなかで、「へん」であることが許されず、「ふつう」であることのステージが狭められている感を強くする。
しかし、例えば、ダウン症協会が、親会員に取ったアンケートでその8割が生んで良かったと回答していることや、世界ろう者会議や日本ろうあ連盟等の当事者団体が人工内耳手術に賛成せず、むしろ聴こえないことでつかんだ手話言語に象徴されるマイノリティ文化に誇りを持って生きているという事実と、その背景にあるもう一つの豊かな文化・世界を、私たちはどのくらい知っているだろうか。
それらのことを、どれほど具体的に提案、紹介できるかということが、私たち福祉という場を通して出会うことになる事業所スタッフや、くれんどの当事者市民には問われているように思う。