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理事長コラム~今月のひとこと~

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風の又三郎と新任者

2023-05-27
 4月の初め、2日間雨が降り続いた後1日中風が吹いた日があった。朝、風をやたらに怖がる2匹のイヌと家の周りに散らばった葉っぱを拾い集めていて、宮沢賢治の「風の又三郎」を思い出した。有名な冒頭は、こんな出だしだ。

どっどど どどうど どどうど どどう、/青いくるみも吹きとばせ/
すっぱいくゎりんもふきとばせ/どっどど どどうど どどうど どどう、

 そうして、山奥の谷川の岸にある小さな学校に、風とともにやって来た高野三郎は、果たしてふつうの転校生なのか、異界からやって来た「風の又三郎」なのか、物語では、9月初めの10日あまりの、分教場の子どもたちとの不思議な、メタフィジックな体験が描かれる。

 又三郎がいなくなる前夜にも風が吹き、冒頭の詩がくり返される。そして、風が吹いた後の光景は、たとえばこんなふうに表現される。

 家の前の栗の木の列は変に青く白く見えてそれがまるで風と雨とで今洗濯をするとでも云ふ様に烈しくもまれてゐました。青い葉も幾枚も吹き飛ばされ、ちぎられた青い栗のいがは黒い地面にたくさん落ちていました

 と、やたらに「青」が出てくる。「風」や「青」は、賢治の物語ではどんな役割を果たしているのだろう。賢治の物語の中で「風」は、世界の色を変え、物語に異空間を生み出す役割を果たし、「青」は、又三郎というこの世ならぬところから来た存在を現出させ、退場させる色になっているとも言われる。

 「注文の多い料理店」でも「山猫軒」でも、「風がどうと吹いて」きた後に、恐ろしいレストランや異形の者である山猫があらわれる。この影響を大きく受けていると言われるのが宮崎駿監督だ。「風の谷のナウシカ」にしても、「となりのトトロ」にしても、「千と千尋の神隠し」にしても、物語にとって重要な「異界」が動き出すときには、必ず風が吹き渡る。

 風と青は、世界の色を変え、現実世界を揺らぎのなかへほうり込む。そして、又三郎や山猫など人知を超えた大いなる存在からの息吹や命を伝えようとする、そんな役割を果たしているようだ。

 この息吹、交信によって生まれたのが、賢治の「心象スケッチ」(物語)であり、イーハトーヴ(理想郷)というもう一つの異界であったとも言われる。賢治は生涯それを追い求めた。

 くれんどの事業所名に宮沢賢治の童話からたくさん採っている理由は、こんなところの思いがあるからだ。異界とまで言わないまでも、「もう一つの見方」「もう一つの世界」を追い求めていきたいものだ。

 最後に、とにもかくにもこの4月、くれんどにも、過去最高の8名の新しいスタッフを迎えた。8名のスタッフが入ったことで、どんな風が吹き、新しい出会いがどんなメタフィジックな物語をつむいでいくのか今から楽しみである。

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