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理事長コラム~今月のひとこと~

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障害のその先に見える世界を語るのは

2022-08-18
 『プラン75』(早川千絵監督)と『ベイビー・ブローカー』(是枝裕和監督)、2本の映画を続けて観た。『プラン75』は、近未来の日本が舞台だが、いま現在リアルタイムで進行している予知夢のようにも見えた。

「75歳以上の高齢者に死を選ぶ権利を認め支援する制度、通称プラン75が今日の国会で可決されました」

 冒頭、テレビからニュース映像が淡々と流れる。

「深刻さを増す高齢化問題への抜本的な対策を、政府に求める国民の声が高まっていました」

 そして、相模原の障害者殺傷事件を想起させる、少年による高齢者施設での大量殺人事件の映像が観る者に大きな衝撃を与える。

 自己責任による「自由」と、不寛容による「同調圧力」が同時に進行する社会にあって、映画に見られるような生産性を上げられない人間の「死への誘導」は、実際映画のなかの出来事では済まされないリアリティを持って迫ってくる。現実に進行しているリアリズムとは、一つは、尊厳死協会などが法制化へ向けて旗をふっている「死の自己決定権」、もう一つは、とりあえず診断制度が高いという理由だけで導入された、ダウン症ほか3つの遺伝性疾患の排除を目的とした「新型出生前診断」のなしくずし的な拡大である。

 映画『プラン75』はしかし、政府の推進するプラン75で働く若者たちの戸惑いや、深くしわの刻まれた倍賞千恵子扮する老人のまさに臨終直前のベッドからの「逃亡」までは描くが、その先の希望は語らない。描いていない。生産性や効率性を批判、告発するところにとどまっているようにも見える。その先の、老いから見える世界、障害から見える多様で豊かな世界をアドボケイトするのは、実は、私たちケアワーカーの仕事ではないかと後で思った。

 続けて観た是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』で救われた。これは、家族再生の物語だ。赤ちゃんポストに捨てられた子どもの違法な養子縁組(売買)の旅を通して、捨てようとした若い女、かつて保護施設に捨てられ今は赤ちゃんブローカーの手伝いをするようになった男、その男の育った施設の子ども、それに『パラサイト半地下の家族』のソン・ガンホ扮するブローカーの男、これら容疑者を追いかける2人の刑事を含め、それぞれのつらい背景と、それぞれの人生が交錯する。

 『万引き家族』の是枝監督は、この映画の製作意図について、「捨てられた子が生まれたことを後悔したりするような着地にはしたくなかった。生まれてきてよかったんだよと、まっすぐ伝えてあげられる作品にしたかった」とインタビューで答えている。

 そのことば通り、生まれた家に恵まれずそれぞれに過去を引きずっている5人だが、不法売買の車の旅を通して、次第に、生まれた家ではない、新たな家族創生の希望を予感させるシーンで映画が終わる。

 捨てようとする女が、終わり近くのモーテルで夜に「○○は生まれてよかった」と、一人ずつにつぶやくシーンが印象的だった。くれんどもまた、「being(あること)はdoing(すること)に先行しなければならない」というウィニコットのことばを大切にしている。障害を持って生まれて来た人生にイエスと言える内実ともう一つのファミリーをつくるのは、私たちケア現場で働く者の仕事だ。

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