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さよならだけが人生ならば、人生なんかいりません
2015-08-27
朝日新聞に連載されている鷲田清一の「折々のことば」から、懐かしいことばを見つけた。
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
唐代の詩人、于武陵(ウ・ブリョウ)の詩『勧酒』の一節「花発多風雨/人生足別離」(花発いて風雨多し/人生別離に足る)の、井伏鱒二による超訳だ。ちなみに井伏鱒二は、ご存じ『山椒魚』や『黒い雨』で有名な福山出身の作家。
この文学上の師の超訳を引いて前文を書き、絶筆となった『グッド・バイ』を遺して情死したのが太宰治だ。
しかし、後の詩人寺山修司は、これを「さよならだけが人生ならば……人生なんかいりません」と茶化した。このアイロニーと茶目っ気が心地よくて紹介したが、全文は実は、太宰治と同じ「東北人」のニオイを漂わせている寺山修司らしく、湿りっ気たっぷりの抒情詩だ。
さよならだけが人生ならば/また来る春は何だろう
はるかなはるかな地の果てに咲いている野の百合何だろう
さよならだけが人生ならば/めぐり会う日は何だろう
やさしいやさしい夕焼と/ふたりの愛は何だろう
さよならだけが人生ならば/建てた我が家はなんだろう
さみしいさみしい平原に/ともす灯りは何だろう
さよならだけが人生ならば/人生なんか/いりません
