事務局長コラム

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高齢者の、出番ですよ

2025-06-20
 私自身もそうですが、高齢者世帯が増加しています。1980年の世帯の第位は「夫婦と子ども世帯」(42%)、第2位が「三世帯同居」(20%)と「単身世帯」(20%)でしたが、2020年には第1位が「単身世帯」(38%)、第2位が「夫婦と子ども世帯」(25%)、「三世帯同居」(8%)にいたっては5位となり、40年の間にまるで逆転していることが分かります。にもかかわらず、まだ人々の意識は何となく40年前の状態ではないかと、北九州で長年ホームレス支援をして来た奥田知志さんは、先日ある講演で指摘されていました。年金も、いつの間にか御輿型から肩車型に移行しています。

 講演で奥田さんは、こうした単身化・孤立化の進行に対して、社会的支援、伴走型支援の必要性を訴えていて、それはそれで、おおいに共感したところですが、もう一つ、もう少し違った角度から「おひとりさま」について発言している人の話を見つけました。社会学者の上野千鶴子さんの「下り坂を降りる〜家族、喪失、老い…そしてひとりに」と題した講演です(25.3.3「朝日新聞Reライフフェスティバル2025春」)。

 そこで上野さんは、「おひとりさま」が最も多い世帯構造になった中で、独居高齢者の満足度が同居世帯よりも高いというデータを提示(22年版『男女共同参画白書』)。「おひとりさま」の生き方を肯定的に捉え、同居者が1人増えるごとに満足度が低下するという結果や、独居高齢者は「寂しさ」は感じつつも「不安」が少ない傾向にあると語っています。また、「寂しさは慣れることで解決できる」とし、独居者が最も悩みが少ないことを指摘しています。そして、「ひとりで死ぬ」ことを「孤独死」と捉える風潮を改めるべきだと訴えています。ただし、条件があります。

 上野さんは、在宅ひとり死を実現するための3条件を提示。本人の強い意志、多職種連携を束ねるキーパーソンの存在、24時間対応可能な訪問介護・看護・医療のシステムをあげています。反対に言えば、これらの条件が揃わなければ在宅ひとり死は難しいということでもありますが。ただ、高齢化社会やひとり死を必ずしも悲観的に捉えていない点は、共感できるところです。人口減少という縮小社会の出口をどこに求めるのか、それは必ずしも人口増加を目標にすることではないということです。

 いまの構成員のなかでまだまだ活躍してもらえる層はないのか。それが高齢者と障害者です。生物学者の小林武彦・東大教授は、『なぜヒトだけが老いるのか』という著書のなかで、進化の過程でヒトのシニアが果たした役割と意味を積極的に評価しています。社会的マイノリティの存在はまた、効率や競争、グローバルをスタンダードにした今の社会のありようにブレーキをかけ、戦争を抑止することにつながるとも言えます。

 障害者、シニアが地域就労のスタンダードモデルになれば、社会はもっとゆるくなるはずです。そしてこのノウハウがまた、他の社会的マイノリティ(引きこもり、刑余者、外国人等)の潜在労働力の活用、雇用へとつながり、結果として子どもの出生率の上昇にもつながるのではないでしょうか。

 くれんどは福祉を通して、障害者や高齢者を始めとする社会的マイノリティの、セーフティネットと出番という一石二鳥の地域づくりをめざしています。そしてそれを、法人雇用から証明しようとしています。くれんどでは、65歳以上の高齢者が2割を超えています。短期入所などスポットで働いている人もいます。出来る範囲で、肩車社会の一翼を担ってみませんか。
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