事務局長コラム

新任者は風

2026-05-20

 今年もまた10名もの新任職員を迎え、現在、所属以外の事業所を1カ月体験する「くれんどロード」が終わったところである。新任者を見ると、季節こそ違うが、わたしはいつも宮沢賢治の「風の又三郎」を思い起こす。

どっどど どどうど どどうど どどう、/青いくるみも吹きとばせ/
すっぱいくゎりんもふきとばせ/どっどど どどうど どどうど どどう、


 賢治の物語において「風」や「青」は、世界の色を変え、物語に異空間や異世界を立ち上げる役割を担っていると言われる。「注文の多い料理店」でも「山猫軒」でも、「風がどうと吹いて」来た後に、恐ろしいレストランや異形の山猫が姿をあらわす。
 新任者に新鮮さとともにわくわくする思いを抱くのは、たぶんこのような期待があるからだろう。新任者10名のうち7名は前歴を持つ。くれんどという場とどんな化学反応を起こすのか。新卒者を含め、楽しみでしかない。

 くれんどの事業所名には、宮沢賢治の童話から採られているものが多い。やまなし(居宅訪問・放課後等デイサービス)、かぷかぷ(グループホーム)、星のかけら(第2グループホーム)、ポラーノ広場(放課後等デイサービス)、ジョバンニ(就労B・生活介護)、カンパネラ(就労B・生活介護)、プリオシン(日中一時支援)。
 それほどに宮沢賢治の信奉者がいるわけでも、わたし自身で言えば、賢治を読んでいるわけでもないが、「賢治的な世界」を周りに置きたい、浸っていたいという思いがどこかにある。そして、風や色や音楽に象徴される、異界とまで言わないまでも、常識(世の主流)とは異なる「もう一つの物の見方」や「もう一つの世界」の可能性を、賢治からメッセージとして受け取りたいという思いがある。

 賢治が生涯で生前出版したのは、「注文の多い料理店」と「春と修羅」の2冊だけである。いずれも、異世界や心象風景をうたった作品だ。異世界との息吹や交信によって生まれたのが、賢治の「心象スケッチ」(物語)であり、イーハトーヴ(理想郷)というもう一つの異界であったとも言われる。賢治は生涯、それを追い求めた。

ああかがやきの四月の底を/はぎしり燃えてゆききする/おれはひとりの修羅なのだ
(『春と修羅』より引用)


 ともあれ、この4月に入職した10名のスタッフがもたらす風が、どんな新しい出合いを運び、どんなメタフィジックな物語を紡いでいくのか、これからが楽しみだ。

(小河 努)

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