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理事長コラム~今月のひとこと~

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子捨てのすすめ

2019-10-29
 ベトナム戦争に従軍したテーヴ・グロスマンは、その著『戦争における人殺しの心理学』のなかで、ふつうは殺せない人と人が殺し合う条件として、①物理的距離のあること(例:無人兵器などの遠隔操作)、②心理的距離のあること(例:宗教対立)をあげている。もう1つつけ加えるとすれば、③社会的孤立をあげることができるだろうか。
 
 むろん、社会的孤立を余儀なくされている人たちが「犯罪予備軍」だとするゆがんだ偏見に与する立場ではないし、そのような予断を統計的に裏付ける事実もない。
 
 しかし、姉、子ども、孫と身近に障害者と暮らした当事者家族の一人として、これまでの生活をふり返ってみれば、少なくとも社会的に孤立しやすい環境にはあり、そういった中で「日本における殺人事件の約5割が、親子間や夫婦間など親族のなかで起きている」という事実や報道に接すると、正直なところざわざわした不安がわき上がって来る。
 
 今年の5月末に起きた川崎市の登戸通り魔事件の直後、「家で荒れているひきこおりがちの長男が子どもに危害を加えてはいけないと思った」と、70代の父親が40代の子どもを殺害するという事件が6月1日、東京・練馬で起きた。何ともやりきれない気分になった。
 
仕事柄、障害のある子どもの子育てやひきこもり相談を受けることがある。気をつけていることは、子どもの出口(居場所)の提供・確保もさることながら、親の出口(逃げ道)の確保である。結論を言えば、「無限責任を負うことはない(社会的意識・世間から自由になること)。子どもはだれかがみてくれる(見捨てる覚悟を持つこと)」と、乱暴なことを言っている。
 
 ふり返ってみれば、人類の祖先が森からサバンナに降り立ったのは、大規模な気候変動仮説が言われた時代から、今では、木登りの下手な不器用で力の弱い集団が疎林や草原に追い出されたという仮説が有力とされるようになった(『絶滅の人類史』NHK出版)。弱い上にヒトの赤ちゃんを泣くのでさらに危険だ。ゴリラやチンパンジーの赤ちゃんは大人になるまでの1年もの間、親にぶら下がっているからそもそも泣く必要がない(『ゴリラからの警告』毎日新聞出版)。二足歩行によってさらに肉食獣に襲われながら、なぜヒトは生き残ることができたのか。弱いがゆえに群れで守り、たびたび食われながらも、自由になった両手で食料を運ぶためだったという食糧運搬仮説が有力らしい(『裸のサル』角川文庫)。
 
 今また、異質なものへの差別と排除が蔓延し、自己責任と自助努力が強調され、社会的孤立の穴はますますひろがっている。本当に重度障害者やひきこもりは不要な存在なのか、あるいは人類の未来にとってのカナリアなのか、そのことが現代の社会に問われている。当面の打開策の一つは、当事者の親が子を見捨てる(子育てから下りる)ことからだと思っている。「世の中、捨てたもんじゃない」。

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