理事長コラム~今月のひとこと~
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日常と新しい風
2019-11-11
日常をつむいでいくのはしんどい。しかも、それが自分のせいで神経を病んだ妻の狂態と尋問をくり返し受けるのであればなおさらだ。作家・島尾敏夫の『死の棘』には、絶望と贖罪といたわりが交錯する、そんな夫婦の「日常」が執ように描かれる。
障害者ばかりが集まっている、集められているという点では、くれんどというところは、あたり前でない非日常的な空間である。このインクルージョンのご時世、必要悪としてのくれんどという言い方もできるかも知れない。にもかかわらず、目の前の仕事に忙殺されるという意味において、その非日常的な空間があたり前になり、風景になりかねない現実が一方である。そこから脱するには、せめて、私たち自身が、マジョリティ(多数派)から障害者が後景、周辺に追いやられているという自覚と使命感を持ち続けることが必要である。絶望と贖罪をくり返すだけでは、くれんどに明日はない。
そういう思いから、初日1日しか持っていなかった新任者研修を、下期から思い切ってリニューアルした。10月1カ月間かけて各部署を体験してもらい、その後のOJT(目標シートによるふり返り、2月に一度の研修)につなぐことにした。ふり返りノートを読んで、新任者、責任者それぞれに、新しい気づきを持ったのだとうれしかった。そこには、くれんどの置かれている状況、くれんどが何をしようとしているか、そして何よりも自分がどう参画していくのか、率直な感想と意志がそれぞれのことばで書かれていた。
とにもかくにも、5人が新しい風をくれんどに運んできてくれた。くれんどが、あらためて希望の持てるチームになるのかどうかは、この5人の問いかけに答えるくれんどのとりわけ職員のチーム力にかかっている。
この文章を書いているのは、1カ月の研修を終えた10月末、これがみなさんに届くのは下期をスタートさせて1カ月後、さて、くれんどはどう変わっているだろう。季節は、立冬から小雪を過ぎているころか。